日々是好日―善聞語録140(広報10月号掲載)
本稿が届く頃には新しい”国の形”が見えているのであろうか。誰がこの国のリーダーになっても、新型ウイルスとの共生を強いられる時代の舵取りはたやすくなかろうが、ともあれ平和で安寧な暮らしを願ってやまない。禅語に「日々是好日」という言葉がある。直訳すると「毎日が良い日」で、音の響きや字面も良く、映画のタイトルになったり揮毫されたりすることも多いが、そんな人生が果たして現実の世に在るのであろうか。良くも悪しくも人生は山あり谷ありで、時にはマサカな事もあるが故に面白い、と説く人もいる。徳川家康も遺訓で「人の一生は重荷を背負うて遠き道を行くが如し」と述べている。生きていれば上手くいかないことも、失敗して反省
する場面も、ひたすら後悔し涙する日もある。とても「良い」とは呼べないような日もあるのが人生であり、その方が納得感がある。
しかしながら、この禅語を残した中国の高僧雲門は、それでも「日々是好日」であるという。その心は、好日とは「良い・悪い」という相対的な見方ではなく「かけがえのない」という意味でとらえるべきと称える。病に侵されてもそれで命の尊さに気付くならば、それもまた「好日」であると。嵐に遭って天気晴朗に感謝し、貧しさに陥って豊かさとは何かを知るのも同義だと。つまり辛いことがあってもそれなりに尊び、「好日」と思える日々を生きることを讃えた言葉なのだ。
コロナ禍により、以前の”普通の生活”―卑近な例で言えば、友人と外出してお喋りしながら一献を傾けるひと時の喜びを再認識した。リモート勤務やウェブ会議を体験すると同時に、デジタル化の遅れや都市生活の脆弱性にも気付かされた。とはいえ、百年に一度とも言われる感染症パンデミックが未だ明けぬ中にあって、歴史の証人になり得たことを„是好日“と呼ぶのは、さすがに時期尚早であろうか。
山崎善也
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