『どうせ死ぬんだから』―善聞語録177(広報11月号掲載)
表題は和田秀樹という精神科医の著書のタイトルである。この中で著者は35年にわたって6000人以上を看取ってきた経験から辿(たど)り着いたという❝極上の死に方❞を説いている。一見穏やかでないが、人は死ぬものだという現実を直視し、決して悲観的になることなく、どうせ死ぬのなら、と好きな事をやって楽しんで寿命をまっとうしようと主張する。死生観は人によって異なるものの、齢(よわい)を重ね死を❝身近な❞ものとして捉え始めた私も、何度となく頷(うなず)きながらページを繰った次第。
著者によると日本が長寿国になったのは医学の進歩に因(よ)るところが大きいが、昂(こう)じて長生きすること自体が目的化し、どのように生きるかが置き去りにされているのでは、と喝破する。長生き至上主義を追うばかりに、好きな飲食や遊興を我慢し、苦い薬を嫌々のむ禁欲に勤しんでいるが…それでも死は必ず訪れる。大事なのはただ長生きするのではなく、生きて何がしたいのか、とも―。
それでも心配が尽きないという方には別の書籍を紹介したい。以前にも本稿で取り上げたが、まずは『心配事の9割は起こらない』。❝余計な❞悩みを抱えずシンプルに生きることを語りかける。著者は禅宗の僧侶・枡野俊明だが、米国の科学者によって起こる確率は5%以下であることが実証されている。更(さら)に100年時代の人生戦略『ライフシフト』の中で著者のリンダ・グラットンは、楽しく人生を生き抜くには有形資産よりも無形資産が重要と説く。金銭や株、不動産等よりも、趣味や資格、友人、そして健康等が大切という。人生観は人さまざまと改めて断りつつ、秋の夜長はこの3冊を座右に、どうせ死ぬのなら、将来の不安に徒(いたずら)に怯(おび)えることなく、親しい人と趣味やスポーツに興じたいものだという想いを深めている次第である。
山崎善也
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