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あしあと

    心配事の起こる確率―善聞語録168(広報2月号掲載)

    10年ほど前のベストセラーに『心配事の9割は起こらない』というタイトルの書物がある。著者は禅宗の坊さんだが、偶然にも同じ時期に米国の科学者が、心配事が30日後に現実になるのは5%程度という研究結果を発表している。ともにさまざまな悩みの正体は実は「妄想」であり、あれこれ悩んで心身の無駄遣いをするより❝今❞の一瞬を大切にして生きる方が得策だと諭しているのである。

    日本人はリスクに憶病な国民性と言われて久しい。欧米に比し失敗を恐れて起業する数は桁違いに少なく、最近は中国や東南アジア勢の後塵を拝している。海外留学を志向する若者は年々減少し、日本語が通じて安全な国内に閉じこもる「ガラパゴス症候群」がさらに加速しているという。大企業も新規分野への投資を控え、内部留保は蓄積するばかり。政府は税制優遇制度でもって投資を奨励したり、創業支援に旗を振ったりしているが、これほど保守的な国民性を果たして動かすことができるであろうか…。

    米国留学時代に、ある教授が学生に10年後の自分の姿を問うた。起業して上場を目指していると答えたアメリカ人、大学で教鞭を執っていると語ったドイツ人、あるいは億万長者になって南の島で豪遊しているという中国人など多士済々。その中で私はというと、派遣元の銀行でサラリーマンを続けているだろうと答え、驚かれたことを思い出す。一国一城の内で大成することを❝良し❞とする価値観がやはりあったのだと思う。

    年明け早々、能登半島地震が発生した。1割しか起こらないという心配事が起きてしまったと捉えるならば、やはり「備えあれば憂い無し」が正しいのか―。しかしながら先の僧侶は言う。その1割が起きたとしても、心配事で浮き足立った生き方をするよりも、今なすべきことをしっかり実践している人の方が力強く対処できる、と。誠に至言である。

    山崎善也

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