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あしあと

    大往生―善聞語録68(広報10月号掲載)

    市長写真

    父が逝った。いつもと変わらず朝食を摂(と)った後、デイサービスへの車に乗り込む際に突然意識を失い、そのまま帰らぬ人となった。取り立てて苦しむこともなく、さほど他人(ひと)の手を煩わせることもなく、享年91の大往生であった。大正-昭和-平成にわたる人生を全うし、多くの人に惜しまれながら見送られたことに感謝の気持ちで一杯である。
    立場上、毎日のように市民の訃報を受け取るが、思いを変えると、そんな一片の書類にもそれぞれの人生ドラマが透けて見えてくる。当たり前のことながら、誰もが赤子として生を享(う)け、子どもの時代を経て社会に出て行ったはずである。それぞれに輝く青春時代があったであろうし、順調な人生ばかりでなく時には苦難や流転もあったかもしれない。父の死に重ね、書類に記されたそれぞれの人生に改めて想いを巡らせてしまう。
    「生者必滅は世の習い」の通り誰もが例外なく死を迎える。だからこそ“如何に長く”よりも“如何に生きるか”に拘(こだわ)りたい。父は急逝(きゅうせい)のため辞世の句など残すこともなかった。惜しむらくは市長就任後、同じ屋根の下に住みながら落ち着いて談を交わす暇(いとま)もなかったことが心残りではあるが、故人がこよなく愛したふるさと綾部のために自らの職責を全うすることが、今となっては一番の供養になると意を新たにしている。

    山崎善也(綾部市長)

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