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更新日:2015年11月19日
「より速く、より高く、より強く」。こう標榜(ひょうぼう)するオリンピック憲章に則って世界のアスリート達は競い合う。その舞台となる東京オリンピック2020の準備段階での綻(ほころ)びが目立つ。新国立競技場やエンブレムの騒動は、問題の中身もさることながら、不明瞭な決定手続きや責任の所在への批判が噴出し、ベストな内容を求める以前に、決める仕組みを“ちゃんとしよう!”というレベルで取り沙汰されている。
政治的判断に“悪さ加減の選択”を唱えたのは、政治学者であり思想史家の丸山真男。曰く「政治にベストを期待すると幻滅あるいは失望に転化する。よって悪さの程度が少しでも小さなものを選択するということである」と。心酔する福沢諭吉の哲学を援用した言説だが、人が率直に良いものを求める気持ちに社会のリアリティを諭す冷めた見方とも言える。確かに政治家の不祥事や問題発言に翻弄される昨今、現実味を増していると解釈できないこともない。
翻(ひるがえ)って、丸山が“悪さ加減の選択“を述べたのは昭和33年で、まさに高度経済成長の波が高まろうとしていた時代。人口減少に転じた社会の舵取りを強いられる現代とは背景が異なる。”悪さ加減の選択“だけでは済みそうもない課題も現代社会には山積しているのである。消滅可能性とまで言われる危機と直面する今、冷徹な視線を持ちつつも、オリンピック憲章に倣(なら)って”ベストな選択“を求める飽くなき気概は抱いていたいものである。
山崎善也(綾部市長)
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